世界中の誰よりも

31/38
275人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
でも、今日帰ってきて思った。 父も母も、確実に年を重ねている。 今は元気だけれど、来年も同じように元気でいてくれる保証なんてどこにもないのだ。 なぜ私は、そんな当たり前のことを考えようともしなかったのだろう。 「……でも、なるべく帰ってくるようにするから」 結婚して東京に住み始めたら、それこそ実家に帰る機会は今よりも減ってしまう。 だから、その前に。 父と母と過ごす時間も、大切にしたいと思った。 「入籍の日取りとか、いろいろ決まったらすぐに報告しなさいよ」 「うん、わかった」 「じゃあ、今日は本当にありがとうございました。お邪魔しました」 家を出て歩き始めると同時に、自然と深い息を吐いていた。 結婚の報告が無事に終わって良かった。 それにしても霧島くんはすごい。 最初から最後まで、緊張している素振りは一切なかった。 「ごめんね。疲れたでしょ?」 「俺よりも、樹さんの方が疲れたんじゃないですか。すごいほっとした顔してますよ」 歩きながら、どちらからともなく指が絡まり手を繋ぐ。 霧島くんの体温は、無条件に私を安心させてくれるんだ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!