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「婚姻届……」
「正解。じゃあ、ここの空欄埋めていってください」
彼はテーブルの上からボールペンを取り、私に手渡した。
「……」
霧島くんが、私の知らない間に婚姻届を用意してくれていた。
証人の欄も、彼の親が書いてくれていた。
涙が溢れてしまうほど、嬉しい。
でも、私が東京に住めるようになるのは、まだだいぶ先だ。
それまでこの婚姻届を提出することは出来ない。
それが、心苦しかった。
「どうしたんですか」
「……せっかく用意してくれてたのに、すぐに提出出来なくてごめんね」
本当は、すぐにでも一緒に住む方法はある。
それは、私が今の仕事を辞めること。
霧島くんと結婚して専業主婦になれば、彼がこの先異動で転勤になっても一緒について行くことが出来る。
「私が仕事を辞めればすぐ解決する問題なのかもしれないけど、でも私……今はまだ、辞めたくないの」
この先ずっと今の仕事を続けていけるかは、正直わからない。
でも今辞めてしまったら、きっと私は後悔する。
それだけは、わかっていた。
「俺、樹さんに仕事辞めてほしいなんて思ったことないですよ」
「え……」
霧島くんは、呆れたように笑った。
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