幸せはこの手の中に

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「樹さんが仕事好きなのは、俺が誰よりわかってるから」 「……っ」 「それより、意味がわからないんですけど」 霧島くんの口調が、少し変わった。 これは私に何か反論したいときの口調だ。 何年も付き合っていると、最初の頃は気付かなかったこともわかるようになる。 「何で樹さんが東京に異動になるまで、結婚出来ないんですか」 「……何でって……」 「俺は、樹さんの異動が決まっても決まらなくても、すぐに結婚するつもりだったんですけど」 「え……」 何故、と言われても言葉に出来ない。 私はただ、勝手に思い込んでいたんだ。 一緒に住むまでは、結婚出来ないと。 「……どうしてそう思ってたんだろう」 「それ、俺が聞いてるんですけど」 呆気に取られる私に、霧島くんの容赦ないツッコミは続く。 「樹さんって、結構思い込み激しいですよね。意外と頑固だし」 「なっ……!」 強く言い返してやりたいけれど、見事に欠点を突かれたため何も言い返せない。 「もう距離なんて関係ない。俺は、樹さんと結婚したいです」 霧島くんはそのたった一言で、私の胸につかえていた心苦しさを消し去ってくれた。
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