幸せはこの手の中に

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「樹さん、帰る前に区役所以外でどこか寄りたい所ある?」 「え、どこだろ……」 「せっかくだし、デートする?」 「うん、する!」 デートだなんて、何だか懐かしい響きだ。 会うときはいつも大体強行スケジュールで、ゆっくりデートなんて出来た試しがない。 今日もそんなに時間に余裕はないけれど、手を繋ぎながら街を歩くだけでも、私にとっては幸せで貴重な時間だ。 「映画まではさすがに観る時間ないか」 「いいよ、ブラブラするだけでも私は楽しいし。もし霧島くんが行きたいお店があるなら、入っていいからね」 「はい、千円没収」 「え……あっ」 「俺の敬語をどうこう言ってる場合じゃないんじゃない?」 「……」 甘いと思えば、意地悪な顔を出す。 ひねくれていると思えば、急に素直な言葉を口にする。 私が好きになった人は、そんな人。
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