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「殿下には教養がございます」
「それが利益になるだろうか」
「なりますとも。作法の教授や目利きの手伝い、話し相手にもなれましょう。なにも腕っぷしだけが、利益となりえるものではありません」
「そう言ってもらえると、すこしは気が楽になるな」
「大丈夫。自信をお持ちください」
「うん。ありがとう、リュドラー」
そう答えはしたが、リュドラーはトゥヒムを働かせるつもりはなかった。己の腕だけを条件に交渉する気でいる。
しかしトゥヒムは自分もこれからは自活しなければと、胸に硬く決意していた。いつまでも守られるばかりではいられない。次期国王として励んできた勉学の数々を使って、生活に必要な金銭を得なければと考えていた。
(リュドラーに頼るばかりではいけない)
なんでも思い通りに手に入れられると勘違いをし、民をないがしろにしてきたからこそ、市民革命は起こったのだ。自分が王位を継いだら理不尽な法や慣習は撤廃していこうと考えていたが、間に合わなかった。しかし、それを活かして自分を生かす機会までもが失われたわけではない。逃げる最中、自分も父王とおなじく磔に、と考えたが、必死に自分を守ろうとしてくれているリュドラーの忠義に応え、生きる道を選ぼう。
それぞれに決意を新たにしたころに、館の主サヒサが現れた。
「やあ、待たせたね。――おや」
酸いも甘いも経験をしてきたと物語る、油断のない目がリュドラーの顔の上で止まった。口の端をわずかに持ち上げたサヒサの視線は、深いフードで顔を隠しているトゥヒムに移動した。
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