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「なるほど」
つぶやいたサヒサはふたたびリュドラーに視線を戻し、彼のたくましく鍛え抜かれた肉体をじっくりと観察すると、腰に帯びている短剣に目を止めた。
「その武器を、こちらに渡してもらおうか」
リュドラーはためらわなかった。鞘ごと外してサヒサに向かって投げる。短剣は毛足の長いじゅうたんの上に音もなく落ちた。
「その他に武器は?」
「持っていない」
サヒサの唇に壮年の色香が漂う。きっちりと後ろになでつけられた髪に、油断なく輝く瞳と年齢にふさわしい目じりのシワ。通った鼻筋に、上品だがどこか淫猥な雰囲気を持つ笑みを乗せた薄い唇。ほどよい筋肉に包まれた体のラインを強調するような、ピッチリとしたジャケットに細身のズボンを穿いている。堂々とした姿は貴族と紹介をされても遜色のない、凛としたたたずまいだった。
「下がりなさい」
愉快そうな響きの声で、サヒサは人払いをした。短剣を拾ったサヒサはみずぼらしい外套に身を隠しているトゥヒムに声をかける。
「自分の思い違いでなければ、そちらはトゥヒム殿下ではありませんか」
トゥヒムは外套を外して、自分の姿をサヒサに見せた。やわらかな黄金の髪。透けるように白い肌。愛らしい小動物を思わせる大きな青い瞳に、少年の気配を残すふっくらとした頬。細く長い首と、なだらかな肩。多くの者にかしずかれ守られてきた気品と、ガラス細工のように透明な危うさを有している青年トゥヒムは、声変わりを経験していないのかと思うほど、高く澄んだ声を出した。
「こうして顔を合わせるのは、どのくらいぶりだろうか。――久しいな、サヒサ」
「そう。異国の珍しかな織物を献上したのが、三ヶ月ほど前のこと。となれば、そのくらいぶり、ということになりますか」
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