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うん、とトゥヒムがうなずく。
「おまえはよく、父上に献上品を持って来たな」
「国王はおいたわしいことになりまして……」
「いい。――非情なようだが、自業自得というものだ」
トゥヒムは視線を落として、輝かしい肌に暗い影をよぎらせた。サヒサがちいさな好色の光を瞳に浮かべる。
「そのように受け止めておられるのなら、話ははやい。もはや殿下は殿下にあらず。身寄りもなく行き場を失った、ただの浮浪者とおなじ」
「きさま、殿下を愚弄する気か」
「いいんだ、リュドラー。サヒサの言うとおりだ」
気色ばんだリュドラーを、トゥヒムがやわらかく制する。サヒサが満足そうにうなずいた。
「ならば、言葉遣いを対等なものに改めさせてもらうとしよう。……おそらく自分に庇護を求めに来たのだろうからね。こちらが下手に出る必要はない」
ニヤリとしたサヒサに、リュドラーは選択を間違えたのかもしれないと臍を?んだ。しかしほかに助けを求められそうな人物は思い浮かばなかった。サヒサは城下でいちばん裕福な、貴族をもしのぐ有力な商人だ。中途半端な相手に助けを乞うよりは、より高く利用価値を見出してくれる人物のほうがいい。それに彼はリュドラーの耳に「商人は利益を優先する生き物だ」とささやいた。それはつまり、リュドラーに利益的価値があると言ったも同然だった。
「私は無力な人間だ。しかし、このリュドラーが命をかけて城から助け出してくれた。その命をむざむざ失うのは、リュドラーの忠義を無駄にすることになる。……サヒサ。どうか私に仕事を与えてくれ。できることならば、どんなことでも受ける」
トゥヒムの覚悟にリュドラーはギョッとした。
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