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「殿下」
自分ひとりが苦労をすれば、トゥヒムには城での生活とまではいかないが、不自由のない暮らしをさせられると考えていたリュドラーは焦った。
「殿下が働く必要など、ありません」
「さっきと言っていることが違うぞ、リュドラー。おまえは私に利益になるものを持っていると言ってくれたじゃないか。あれはウソだったのか?」
「いえ……」
「ならば、私も働こう。なにもしないで守られるばかりでいるのは、もうたくさんだ」
「……殿下」
「なるほど。美しい主従愛だ。たしかにトゥヒム殿下……、いや。呼び捨てにさせてもらうとしよう。かまわないかね」
もちろん、とトゥヒムはうなずく。
「殿下と呼ぶのは、そちらに迷惑がかかるだろう」
「ご尊顔を知らぬものも多い。呼び捨てならば偶然の同名と言い訳もできる。……あるいは、雇ったときにつけた別の名と言い逃れることも可能だ。――そういうことで、リュドラー。君もトゥヒムを殿下と呼ぶのはやめたまえ」
リュドラーはしぶしぶ了承した。
「これからは、トゥヒム様と呼ばせていただきます」
「おなじ働き手となるんだ。敬称も敬語も必要はないぞ、リュドラー」
「そう言われましても」
困惑したリュドラーに、サヒサが助け舟を出した。
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