交渉

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「なに。かまわないさ、トゥヒム。リュドラーは君の従僕という形にしておけば、なにも問題はないだろう」 「では、俺たちを雇う気があるんだな」 「こちらの条件を呑むのであれば、の話だよ」  サヒサがねっとりとした視線でリュドラーの肢体をながめた。ゾワリと産毛を逆立てたリュドラーの反応に、サヒサがクックッと喉を鳴らす。 「淫靡な余興の奴隷として従うのであれば、トゥヒムにふさわしい暮らしを保証しよう」  なにを言われているのか、リュドラーは瞬時に理解ができなかった。 「な……、に?」 「トゥヒムは自分の客人として遇すると言っているんだ。この屋敷でいちばん住み心地のいい部屋を用意し、衣服も料理も自分と遜色のないものを与える。だが、ただそうするだけではないよ。退屈なときの話し相手になってもらうし、遊びにもつきあってもらう。ほとぼりが冷めたころ、商売ができるように取り計らってもいい。そのために必要な知識などは教えるよ。――どうかな? これ以上の条件を提示できるものは、自分のほかにはいないと思うが」  サヒサの瞳が淫靡に暗く光っている。さきほどの言葉は本気なのだと、驚きの先に理解したリュドラーは喉を鳴らした。 (この俺を、奴隷にする……、だと)  護衛や警護ではなく、肉欲の奴隷として働くのならという提案に、リュドラーは迷った。横目でチラリとトゥヒムを見れば、彼は提示された条件「淫靡な余興の奴隷」という言葉がわからないらしく、キョトンとしている。  無理もない。  放蕩の限りを尽くしていた王に愛想をつかしていた女王から、トゥヒムは過保護すぎるほど過保護な扱いを受けていた。通常ならばその道を知って当然の年頃でありながら、そのあたりの知識が欠けている。わかるのは「奴隷」という言葉ぐらいで、それが実際、どのようなものであるかは知らないはずだ。
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