自覚

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 リュドラーは目を開けた。  鏡の中に秘部をさらして縛られている男がいる。薄いシャツが鍛え抜かれた筋肉に添って波打ち、膝裏にかかっている手首は絹のリボンで縛られていた。首輪をしているその姿に騎士としての面影はすこしもなく、贄に似た風情がある。己の力ではどうすることもできない、意志など存在させてはならない道具。――リュドラーの目には、そう見えた。 「ふふ、リュドラー。しっかりと目を見開いて、刻みつけておくんだよ。これが君の職業だ。そして君は、その身に与えられるものをきちんと受け入れて、正直な反応を返さなくちゃならない」  ティティはナイフを手に取って、リュドラーのシャツを首元からまっすぐに、ゆっくりと刃を滑らせて切り裂いた。リュドラーは鏡の中のティティが、自分によく似た男のシャツを丁寧に布切れにしていく姿をながめていた。 (あれは、俺じゃない)  リュドラーの理性がちいさく叫ぶ。あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない――。  シャツを切り終えたティティは、ナイフとともにそれをきちんとサイドボードに置いて、無表情に天井を見上げるリュドラーの姿に、唇を舐めた。 「さあ、リュドラー」  ティティの指先がリュドラーの胸乳に触れる。クルクルと色づきを撫でられて、リュドラーの肌がわななく。 「……う」 「そう。そのまま、感じるままに声を出して」  歌うようにティティが言う。指が滑るごとにリュドラーの理性はたわみ、細く薄い息が唇からこぼれ出た。ティティはリュドラーの肌を指先でなぞりながら、もう片手で彼の唇を開き、口内をまさぐった。
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