紙片

4/7

730人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
 表情同様に呆けた声を出したトゥヒムの目は、淫猥な色を消して無垢な光を取り戻していた。それが当惑に揺れている様子に、サヒサはジワジワと充足を満面に広げた。凄みのあるサヒサの愉悦に、トゥヒムは自分が取り返しのつかないことをしたのだと気づいた。目を見開いて、ぐったりとしたリュドラーに視線を戻す。 (私は……)  己の肉欲でリュドラーを貫き、わがままに精を注いだ。その事実に色を失うトゥヒムの足元に、ティティがうずくまる。 「後始末を」 「え?」  ティティが口を開き、トゥヒムのやわらかくなった陰茎を含もうとする。飛び退ったトゥヒムはあわてて身支度を整えた。ティティは無表情のまま、サヒサに顔を向けた。 「そう恐れることはない、トゥヒム。君はいま、男の本能ともいうべき支配欲を知り、それを満たした。一人前の男としての段階を踏んだのだ。愚かな母君のせいで未経験のままだった、とうに経験をしておかなければなかったものを、やっと経験できたんだ」  従僕の運んできたワインを手に取ったサヒサは、優雅にトゥヒムにグラスを勧める。困惑しているトゥヒムは、おずおずとそれを受け取った。サヒサはうなずき、もうひとつグラスを従僕から受け取って軽く持ち上げる。 「乾杯するとしよう、トゥヒム。君の未来と、彼のこれからに」  サヒサの視線を追って、トゥヒムは横たわるリュドラーを見た。うっすらと目を開いてはいるが、意識があるようには見えない。あるいは自分とおなじように、どうしていいのかわからなくて、身動きができずにいるのかもしれないとトゥヒムは思う。 「男を受け入れる、という体験を知っているのといないのでは、今後の教育に大いな違いが出るのだよ、トゥヒム。――誰か。あそこでたわむれているうちのひとりか、ティティか、あるいは自分の知り合いの、初物食いが好きな男にさせてもよかったんだがね」  含みのある視線を向けられ、トゥヒムはサヒサに顔を戻した。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

730人が本棚に入れています
本棚に追加