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「危害なんて、ぜったいにあり得ない。そのために気をつけているんだから。――大丈夫だよ、リュドラー。君の大切な主様には、どんな害も及ばない。ぜったいに僕の主に君と彼との逢瀬は知られない。トゥヒムはしかるべき時がくるまで、サヒサ様の庇護を受け続けるんだ」
しかるべき時とは、商人としての知識を充分に身に着ける時だ。その後は、サヒサが約束を守るなら必要な資金と場所を提供されて、商人とその下僕としてふたりは生きていける。そうなることで、ティティの利益になるとなれば――。
「俺たちと共に、別の街へ行くつもりでいるのか」
奴隷という部分にこだわるティティは、縛りのない身にあこがれているのだとリュドラーは判じた。トゥヒムと自分がサヒサの手から離れるときに、自分も逃してほしいとサヒサに頼むつもりで、いまのうちに恩を売って口添えをしてもらう気でいるのだと考えられなくもない。
(だが、それほど幼稚で頼りない作戦を、はたしてティティが考えつくのか)
トゥヒムとリュドラーが口添えをしたとして、サヒサが聞き入れる可能性はゼロではないか。サヒサにとってティティを手放すことは、不利益にしかなりえない。
リュドラーの問いに、ティティは意味深な笑みを浮かべて「どうだろうね」とささやいた。手指を動かしリュドラーの性感帯を目覚めさせていく。リュドラーのたくましい肌を淫靡な色に染めながら、ティティは自分の内側に語りかけた。
ここから逃れようとは思っていない。むしろ、ずっとこの屋敷の中にいたい。この屋敷のほかに、生きる場所を知らない。街に出かけたり馬車で遠出をしたりすることはあるけれど、外の世界を本当の意味では知らないから。
(僕の巣はこの館……、サヒサ様だ)
リュドラーの嬌声が高くなる。極上の下ごしらえをほどこした彼をサヒサの前に提供するのが、いまのティティの仕事のメインとなっている。準備万端整ったリュドラーを、サヒサは好きな調理法で味付けをして、彼とトゥヒムの反応を瞳で味わう。
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