逃亡

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 人々の興奮した声が街中に響いている。  なんというあさましい声だろうと、眉をひそめたリュドラーは薄暗い路地から明るい通りを覗き込んだ。  誰も彼もが狂気としか言いようのない笑みを浮かべて、大声でわめいている。  どれほど耳をふさいでも、手のひらを突き抜けて鼓膜に触れる怒号に似た歓声のうねりの中心に、ここヨグラミア帝国の国王シャスワがいた。  いままさに、国王は王城の広間で処刑されようとしている。  市民革命。  それがこの熱狂の火種だった。  民による民のための政治が、これからこの国ではじまろうとしている。  そのための祝賀の炎として、磔にされた国王は槍で刺され、火にあぶられる。  奥歯が鳴るほど激しく噛みしめ、リュドラーは悔しさを抑え込んだ。いますぐに飛び出して、民衆を蹴散らし国王を助けたい。しかし彼がいくら一騎当千と謳われた勇猛果敢な騎士であっても、国中の民を相手にするのは自殺行為だ。  自分ひとりならば、そうして抗い命を落とすという選択も可能だが、彼には守るべき人がいた。  国王シャスワのひとり息子、トゥヒム殿下。  少女のように透き通った肌と柔和で大きな青い瞳。絹糸を思わせる見事な金髪にのびやかな四肢を持つ彼を、リュドラーはなんとしてでも守り、生き延びさせなければならない。 「リュドラー」  人一倍体格のいいリュドラーの、大きな背中に隠されているトゥヒムが小声で呼ぶ。振り向いたリュドラーは、ぼろきれのような外套のフードで顔を隠しているトゥヒムを見た。
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