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気持ちの重ならない愛撫でもリュドラーの肌は上気し、ティティの頬は赤く染まる。どれほど肌を高揚させても、ティティは決してリュドラーの唇にキスをしなかった。そのほかの場所には遠慮なく舌を這わせても、唇だけはトゥヒムのものだと避けている。
(リュドラーの主はトゥヒムだ。――サヒサ様じゃない)
だから気持ちを重ねるに等しいキスだけはしないと、ティティはリュドラーの口内に指を入れて上あごを撫でた。
「ほら、指を吸って。おしゃぶりの練習だよ、リュドラー」
目じりを濡らして、リュドラーはティティの指に吸いついた。ティティは指をひらひらさせて、リュドラーの舌とたわむれ口腔を指で犯した。
(唇を重ねるのは、ただひとりだけ)
性奴隷として、ティティはサヒサ以外とも肌身を重ねる。けれど唇のキスはサヒサとしかしていなかった。サヒサもまた、ほかの性奴隷とたわむれたとしても唇の重ね合いだけは避けていた。少なくともティティの知る限り、サヒサは自分以外と口づけをしていない。
ティティにとって口と口を重ねる行為は、特別な意味を持っていた。だからリュドラーがそれをする相手は、トゥヒムだけだと思っている。
「ああ、リュドラー。すごくいいよ。とてもかわいい」
「ふっ、んぅう、う……、む、ふぅ」
しっとりと興奮の汗を浮かべるリュドラーの肌から、健康的でたくましい香りがくゆる。この匂いと性的な肌と瞳の倒錯が嗜虐心をくすぐり、支配欲を湧きたたせるのだとティティは理解していた。サヒサはいつからリュドラーに目をつけていたのだろう。
「かわいいね、リュドラー。もっと乱れていいんだよ。……お茶の時間にたっぷりと味わってもらうために、もっともっと甘く仕上がっておかなくちゃいけないからね」
「んっ、ぁふ……、ふ、んぁ、あ、ああ、あ」
リュドラーの瞳の焦点がぼやけて、淫らな酔いに流される。それでもなお気配のそこかしこに残る健全で勇猛な雰囲気が、ある種の人間にはたまらなく甘美な情動を湧き起こすのだとティティは知っている。
自分には、いくら努力をしても身に着けられない資質。――いままで生きてきた時間のみが生み出せる、リュドラーならではの感触にティティの胸は火傷に似た痛みを覚えた。
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