甘美な憎悪

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「好きなだけ、部屋を探索していいよ。ただし、それで時間を削られたぶん、急ぎで下ごしらえをしなきゃいけなくなるから、その覚悟だけはしておいてよね」  ゴクリとリュドラーの喉が鳴り、わかったと硬い返事が唇からこぼれ出る。のっそりと起き上がったリュドラーは情欲に気だるくなった体を動かして、部屋のあちこちを調べはじめた。  新しい場所に連れてこられた犬が、あちこち匂って確認しているみたいだとながめながら、ティティは自問する。 (僕は、この館のほかに……、サヒサ様の傍のほかに行こうなんて気を起こしたことはない)  そしてサヒサが自分を捨てるなんてことはあり得ないと確信している。それなのに胸の奥に不穏な風が吹いていた。どうして、とティティはみぞおちに手を乗せた。リュドラーがゴソゴソとあちこちを点検している。裸身で真剣に部屋中を点検する姿は滑稽だ。それなのに親愛の情が湧いてくる。――ああ、これが原因なんだ。  ティティは指を丸めて下唇を噛んだ。自分にはないものにサヒサは夢中になっている。新しい玩具を手に入れた子どもみたいに、リュドラーとトゥヒムの反応にはしゃいでいる。自分にしか執着しなかったサヒサの興味がほかに移っている。それがどうしようもなく不穏な気持ちにさせてくる。  甘美な憎悪を持って、ティティはサヒサに仕えていた。彼が自分にのめり込むことで、その感情を満足させていた。それを奪われるなんて、想像もしたくない。サヒサの注意はすべて自分に向けられるべきで、他者にそそがれていいものではない。 「……は、僕のものだ」  自分のつぶやきにティティは驚き、笑った。  いきなり笑いはじめたティティに、リュドラーはギョッとして振り向く。 「全裸で部屋を調査するなんて、笑って当然だろう?」  ティティはそうごまかした。それに納得し、バツの悪い顔で下着を身に着けようとベッドに戻ったリュドラーの手首をティティが掴んだ。
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