728人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
食事を終えたリュドラーは室内を見回し、庭に面している扉の傍に、頑丈な革靴が置いてあるのを見つけた。
(本当に、外に出てもいい、ということか)
トゥヒムがいるから、逃げるわけはない。だから自由に外に出てもいいと、頑丈な革靴で示しているのだろう。
立ち上がったリュドラーは屋敷の内側に面している扉の前に立ち、ドアノブをひねった。外側から鍵がかかっているらしく、ガチャガチャと金属が揺れる音がした。
ふっと息を抜いて室内を見回す。
大きな窓には分厚いカーテンがかかっている。隙間から明るい光がこぼれ入り、室内は深夜にランプを灯した程度には明るい。ベッドは庭側を頭にする形で固定されていた。枕元にはちいさなチェストがある。チェストの高さはベッドよりもすこし高いくらいで、その上にはランプとマッチが置かれてあった。
チェストに近づき、しゃがんでながめる。装飾のされていない、木肌そのままの質素なものだ。引き出しは三段。上段を開けると紙とインク、ペンが入っていた。中段は香油らしきものの瓶とタオル。下段はリュドラーが身に着けているのとおなじシャツが三枚入っていた。
(ここで生活する間は、この恰好でいろということか)
サヒサの「淫靡な余興の奴隷」という声が耳に蘇り、リュドラーはゆるく頭を振った。どういうことを求められるのかはわからないが、性奴隷には下着など必要ない、ということだろう。
奴隷がどういうものであるかをリュドラーは知っている。しかし性的奉仕は話に聞くだけで、経験がないどころか見たこともなかった。いったい、なにをどうすればいいのか。――うまくできなければ、トゥヒムの擁護を解かれるのではないか。
一抹の不安がリュドラーの胸によぎる。
(だいたい、男の俺になにをさせるつもりだ)
最初のコメントを投稿しよう!