逃亡

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 ◇  早朝にはじまった市民革命という名の暴動の熱気は、日が落ちてもまだ続いていた。着のみ着のままで連れ出したトゥヒムは、薄い寝間着の上に使用人室にあった外套を羽織っているだけだ。あたたかな王宮で過ごしているのとは違い、街中の夜気は骨身に染みるほど冷たい。  リュドラーは腕の中にすっぽりとトゥヒムを抱きかかえ、温めながら今夜の寝床がどこかにないかと考えをめぐらせた。 「どこかの商家の馬小屋にでも、身をひそめるほかに道はないようですな」  金目の物を持ち出す猶予はなかった。あったとしても、宿屋に泊まればすぐさまトゥヒムは捕らえられるだろう。どこか、この暴動を静観している裕福な商人の屋敷に近づき、馬小屋のわらを拝借して休むほかはなさそうだ。 「馬小屋か……。馬と一夜をともにするなど、考えたこともなかったな」 「申し訳ございません」 「なにを謝る。私は馬が好きだ。そういう経験も面白いと思ったまで。とがめているわけじゃないさ」  トゥヒムの声は快活で、リュドラーは憐憫を胸に浮かべた。 (おいたわしい)  革命が起きなければ、彼は次期国王となり、なんの心配もない生活を送っていた。――いや。暴動が彼の代で行われなかったことを喜ぶべきか。  幼いころよりずっと守り慕ってきたトゥヒムが磔にされるなど、耐えられない。  どうか、生きて。  それだけがリュドラーの望みだった。
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