交渉

3/9
前へ
/242ページ
次へ
 リュドラーの思惑は当たったらしく、男のひとりが「ここでおとなしくしていろ」と言って、屋敷へ駆けた。  これで屋敷の中に通される。  戻ってきた男に案内されて、リュドラーとトゥヒムは裏口から客間へ通され、しばらく待つよう言い置かれた。 「なあ、リュドラー」 「いかがしましたか、殿下」 「言えない筋で人を連れてきたとは、こういう場合のためにサヒサとひそかに算段をつけていたのか」  リュドラーは年よりも幼く見える曇りのない瞳にほほえんだ。 (この穢れなき魂を、かならず守り抜き天寿を全うさせてみせる) 「まあ、当たらずとも遠からず、と言ったところでしょうか。商人は権力よりも利益に従うもの。――利益があるとなれば、見合った危険も喜んで受け入れるものです」 「では、算段をつけていたわけではなく、商談をするために、ああいう言い方をしたというのか」 「そのとおりです、殿下。この俺の腕を護衛として差し出し、殿下を養育してもらう。――これだけの屋敷を構える男ですから、護衛はいくらいても困りはしないはずですから」 「そのうちの一人が勇猛で知られる騎士リュドラーならば、申し分ない利益となる、というわけか」 「ええ」 「私もなにか、売り込めるものがあればいいのだが」  トゥヒムが眉をひそめ、うつむいた。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

738人が本棚に入れています
本棚に追加