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「ねえどうしよう。もう来るかな」
「莉々、落ち着いて。一旦深呼吸。ほら、吸ってー吐いてー」
莉々は拓人の言葉に従い、大きく大きく息を吸い込む。そして、深く吐き出した。けれど、胸の鼓動は速度を緩めない。
途端、インターホンの音が部屋中に鳴り響いた。
「どっち?」
「…悠太郎くんだ」
「兄貴か」
ロックを解除し、上がってくるのを待つ。
なんと今日、とうとう莉々と拓人は結婚報告をするのだ。詳しく言えば、悠太郎と莉々の弟の陽向にだ。二人共東京に上京してきているので呼びやすい。
拓人が午後からオフである土曜日の今日、二人をこの我が家に呼ぶことにした。
「お邪魔します」
「あ、はーい」
莉々は廊下に出て、玄関へ向かう。
悠太郎は、彼女の記憶の中の姿と何も変わっていなかった。黒で統一された服や、礼儀正しい姿勢。スリッパを差し出すと、「ありがとう」と微笑む。
昔の記憶が蘇る気がした。
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