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しばらく黙って手紙を読んでいた八重ちゃんは涙を目にいっぱい溜めてこちらを見た。泣いたって何も変わらないってわかってるのに、どうして人は涙を流すのだろう。 「早く病院、いって」 私は無理やり笑顔を作ってそういった。上手に笑えた自信はないけど、そうやって平気なふりをしないと私が泣き崩れてしまいそうだった。八重ちゃんは私を見て落ち着くことが出来たのか、黙ってうなづき、病院のほうへとかけていった。 それを見送ると一気に体の緊が消えフラフラとベンチに座った。一緒に病院に行けばよかったと思った。けれど、2人がはじめて思いが通じあったところに私が邪魔をしてはいけないような気がした。溢れそうな涙をごまかすようにお茶を飲み干し、重い体を起こし立ち上がる。 病院に向かおうと足を進めた時だった。ケータイがポケットの中で虚しく「そのとき」を告げた。
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