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僕はそれが嬉しいようで……悲しいようで、身の置き所がなくなってせわしなく視線を動かした。
と――
ふと、桜の幹の裏側に、何か紙が貼り付けてあるのが見えた。
「何だ……?」
僕はすぐに手を伸ばし、テープで幹に貼り付けてあっただけのそれをはずした。
「どうした?」
タカヒロが僕の手元をのぞきこんでくる。
僕は手を震わせていた。
――手の中にあるのは、スケッチブックのページ、二枚。
一枚は、四年前のあの日――太陽を背にした冬の桜と、タカヒロと僕の絵だ。
そしてもう一枚は――
「タカヤ……」
タカヒロがつぶやいた。
“タク”“タカヒロ”“タカヤ”
それぞれ名前が書きこまれた、三人の「青年」の笑顔が、そこにはあった。
高校生の三人ではない。成長した僕らの「似顔絵」。
三人の、満面の笑顔。
――ああ――
タカヤ。お前はやっぱり約束を破らなかった。
桜の花びらが舞い降りてきて、似顔絵を飾る。淡いピンク色は、絵の中で弾ける僕らの笑顔を色づかせた。
「なあタク」
タカヒロが僕を呼んだ。
「お前の笑顔が一番幸せそうじゃねーか。……きっとそれがタカヤの願いだったんだ」
未来に。希望を。
僕は震える声で、隣に立つ友に尋ねた。
「僕も……未来を見てもいいのか?」
「ったりめーだろ」
「僕に希望はあるのか?」
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