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「なあタカヒロ――」
僕は思い切って言ってみた。
「今日、放課後遊びに行かないか?」
断られるはずがないと思っていた。タカヒロは余裕で大学へ行ける予定なのだ。今日一日くらい、なんてことはないはずだ。
しかし。
タカヒロは軽く手を振って、
「無理」
と言った。
僕は思わず、声を荒らげた。
「なんで……っ」
「あー、お前知らなかったっけ。俺の志望大学変わったんだよ。担任がうるさくてさ……もっと上狙えって。だから俺ももう少し勉強しねえと追いつかねえんだ」
「そんなのお前らしくないじゃん。遊べればいいんだろ? お前は先生の言葉なんかで左右されるヤツじゃないだろ?」
――その時、タカヒロが僕を見た目つきを。
僕は生涯忘れられないかもしれない。
「……川ってのは、何又にも分かれてるもんなんだよ」
低く言って、タカヒロは教室の中心にまで行ってしまった。
再び声をかける気にはなれず、僕は教室の戸口でうなだれた。
タカヤの教室に行ってみた。
タカヤはいなかった。クラスのやつらに聞いてみると、タカヤは休み時間、しばしば行方不明になるとのこと。
ああ、と僕はおぼろげに思った。
風景描きに行ってんだろうな。
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