前編

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「なあタカヒロ――」  僕は思い切って言ってみた。 「今日、放課後遊びに行かないか?」  断られるはずがないと思っていた。タカヒロは余裕で大学へ行ける予定なのだ。今日一日くらい、なんてことはないはずだ。  しかし。  タカヒロは軽く手を振って、 「無理」  と言った。  僕は思わず、声を荒らげた。 「なんで……っ」 「あー、お前知らなかったっけ。俺の志望大学変わったんだよ。担任がうるさくてさ……もっと上狙えって。だから俺ももう少し勉強しねえと追いつかねえんだ」 「そんなのお前らしくないじゃん。遊べればいいんだろ? お前は先生の言葉なんかで左右されるヤツじゃないだろ?」  ――その時、タカヒロが僕を見た目つきを。  僕は生涯忘れられないかもしれない。 「……川ってのは、何又にも分かれてるもんなんだよ」  低く言って、タカヒロは教室の中心にまで行ってしまった。  再び声をかける気にはなれず、僕は教室の戸口でうなだれた。  タカヤの教室に行ってみた。  タカヤはいなかった。クラスのやつらに聞いてみると、タカヤは休み時間、しばしば行方不明になるとのこと。  ああ、と僕はおぼろげに思った。  風景描きに行ってんだろうな。     
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