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前編
桜よ。
お前はどうして、あの時の僕らにあんな約束をさせた?
*****
あの頃の僕らは、未来のことなんか考えずにただ今を楽しく生きることが重要だった。
僕は早くに母を亡くした。だから「未来なんかあるかどうかも分からないんだからさ」なんて、すれた言葉も口にして。
そして僕の周りに集った二人は、その言葉を否定することもなかった。ただただ僕と一緒に遊んでくれた。遊びに誘ってくれた。
そんなことを続けて五年――
大学受験を迎えて、初めて僕らにつきつけられたものは、「未来」という「現実」だった。
おかしな話だ。なぜ現実に「未来」があるんだ。だけどそうだったんだ。現実に未来を見出さなければ、高校三年生――この先一年やっていけない。
いつもの友の一人、タカヒロは「俺は遊び人になる」と宣言していた。
それでも教師には大学へ行けとしつこく言われていたから、四年制の自由度の高い大学を探していた。
もう一人、タカヤもあまり勉強や就職を考えている様子はなかった。
ただ、タカヤには夢があった。風景画師の夢。
「今更遅いだろうけどね」とつぶやきながら、タカヤは芸術系の大学に行くことを決めた。
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