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母は立ち上がり、吊るされた兄の方へ歩いていく。
「こんなにきつく結んじゃって。これじゃ、解くのが大変じゃない。あなたはいつもそう。靴ひもだって、上手く結べないんだから」
母が机の上にあったハサミを取り、兄の首を支えているロープを切った。
すると、兄の体は母にのしかかる形で崩れていった。
母は兄の体を抱きながら床に座り、まるで赤ん坊を抱くかのように頭を優しく包んだ。
その様子を、僕も父も茫然と見ていたのだった。
「ほら、ダメよ。ママの言う通りにしないと」
「なぁ……、こいつの顔は、どうしてこんなに痣だらけなんだ……?」
父が兄の顔の痣に気づいたのか、ボソッと呟いた。
「まさか……、お前がやったのか?」
父は、母の方を見て言った。
母は、何も言わず不気味に笑った。
ふと、僕はドアの方を見て不思議に思った。
「ねぇ、母さん。兄さんの部屋、どうやって入ったの? 鍵、かかってたでしょ? 兄さんが開けたの?」
「鍵なら、ママが持ってるわよ」
ドアの方を見ると、内側に鍵穴はないように見えた。
「お前がまさかこいつを閉じ込めていたのか?」
父が青ざめた表情で言った。
「だって、この子ったらママのご飯を食べないで、夜中に冷蔵庫漁ったりするんですもの。そんな事したら、体に良くないじゃない」
「お前、それは……」
「この子は、ママがいないとダメなんだから。食事もトイレも、お風呂だって、ママがついていないと」
完全に狂ってしまったと、僕だけでなく父も思った。
母が自分の事を「ママ」というのは、僕らが小さい頃に言っていた言葉。
母は僕ら、特に兄に「ママ」と呼ばせたかったようだが、中学にあがる頃には周りの影響もあって「母さん」と呼ぶようになっていた。
そういえば、その時も母は怒り、僕と兄の顔を殴ったっけ。
だが、兄をそのままにはしておけず、父は母を説得し電話をかけにいった。
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