今際の際

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 男性は良き夫ではなかった。 若い頃から妻に手を上げる、今でいうドメスティックバイオレンスをする男だった。 飲む、打つ、買うは当たり前で、それをするのが男の生き様とばかり、恥じる事もなかった。 ただ、救いだったのは、男は仕事だけは真面目に務めることだった。 それゆえに、生活に困るような事もなかった。 借金をして、家族を路頭に迷わすこともなかった。 ただ、何か気に要らないことがあれば、妻をなじり、手を上げる事が多々あった。  娘がそれなりに大きくなってきた頃、母に言った事がある。 「どうして別れないの? お母さんばかりに辛くあたって」 その言葉に妻は何も言わず、笑っただけで返事はなかった。 娘は、自分にはわからない何かがあるのだろうと思った。  そして、幸いにも、男は妻に手を上げることはあっても、娘には手を上げた事はなかった。 男は娘をとても愛おしく思って可愛がってもいた。 それゆえに、妻も離婚してまでもと考えもしなかった。
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