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それを男性は何も言わずに、見送った。
「まあ、ええわ」
男性は悔し紛れの言葉を吐いた。
「お前も、幸福やったやろ? 今まで、食わせてきてやったんやから。なっ?」
男性は今際の際で笑った。
それを見て、妻は男性の手を握りながら、何故か首を強く横に振った。
男は妻の仕種を訝しがった。
そして、妻は男性の耳元に顔を寄せた。
「……」
妻が何かを言った途端、男性の両目がくわっと見開き、驚きの表情のまま、妻を見た。
「嘘や。嘘やろ? 嘘やと言うてくれ」
男性が最後の声を振り絞るような声で叫んだ。
と同時に、妻は今まで握っていた男性の手を振りほどき、病室を出て行った。
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