第1話  妄想が健やかに あなたを救う

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やることと言えばカウンターで来訪者を待ち受けたり、稼働中の依頼を管理するくらいです。 置物のように座っているだけという日も珍しくはありません。 特に今日なんかは顕著ですね。 魂にコケが生えるくらいに暇です。 「はぁ。何かでっかい事でも起きませんかねぇ。ドラゴン退治とか、大盗賊の一斉撲滅とか!」 もちろんこんな辺鄙な所に依頼なんかありません。 この地方特有の野草採集とか、畑を荒らす動物の撃退くらい。 ルーキー向けのエリアと断言しても過言ではないのです。 「しましょうよぉ、大討伐。やっちゃいましょうよぉ、大捕り物……」 カウンターで首を休ませても咎める人は居ません。 上司であるマスターは2階で仕事中なのですから。 薄給とはいえど、こんな勤務態度ではさすがに叱られます。 あの筋肉お化けに怒られるくらいなら、背筋を伸ばしたまま居眠りする方が断然に楽ですよ。 「どんなのかなぁ、大討伐って。見てみたいなぁ」 書物や噂の中でしか知らない話です。 だからこの目で見るよりも、妄想した方が手っ取り早いのです。 例えば、こんな風に……。  ◆ 『アリシア姫、私はもう行かなければ』 『そんな、行かないでください……。ドラゴン退治だなんて危険すぎます!』     
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