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『泣かないで。その美しい瞳で見送ってくれないか? それだけで100万の味方を得たような気になるんだ』
『ああ、あなたのために泣きたいのに。それすら許してくださらないのね』
『夢に生きてしまう私のことを、許してほしい。きっと、秘宝を持ち帰ってみせるから』
『どうか、ご無事で。それだけをただ祈り続けています……』
◆
「あのう?」
「ヒャイ!」
今すっごい変な声出た!
びっくりしたぁ、急に話しかけないでくださいよ。
え? ずっと声をかけてました?
依頼の報告に来たんですか……すいません。
「それから、僕はドラゴン退治なんか行きませんよ? そもそも野草刈りから帰ってきたとこですし」
「ハイスミマセン……」
あの妄想が全部漏れてただなんて、死にたくなりますよ!
ともかく平謝り。
死んだ魚のような目をして陳謝です。
ーーバタン。
イケメンさんがお帰りです。
彼の苦笑いを忘れることは無いでしょう、たぶん。
恥の余り職を辞して引きこもりたいですが、あいにく我が家にそんな余裕はありません。
なので傷心に構うことなくカウンターに座り続けるのです。
「あぁ、貧乏とは辛いもんです。貴族の箱入り娘として生まれたかったですよ……」
ど平民の私には無縁の世界。
働かずに済む暮らしなんて、死ぬまで望めそうにありません。
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