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だからせめて心の中だけでも、と思ってしまうのです。
◆
『アリシアお嬢様、お茶にございます』
『なぁに、またその銘柄? それ好きじゃないわ』
『これはとんだ失礼を……。すぐに替えをお持ち致します』
『ふふ、冗談よ。せっかく淹れてくれたのだもの。それをいただくわ』
『お嬢様のご温情。この老体にはもったいのう御座います』
『それはそうと、今度の晩餐会だけど』
『先ほど仕立て屋より新しいドレスが届けられております。ご覧になられますか?』
◆
「いいわね、持ってきてちょうだい。お父様に見せてビックリさせましょう!」
「おうアリシア。今日も絶好調だな!」
「……ゲフゥ」
目の前で筋肉が人語を喋りました。
天井の方へググッと頭を向けると、ようやくご尊顔を拝めます。
彼は私の上司兼、店舗責任者のギルドマスター。
いわゆる雇い主ってやつです。
「暇だから無理もねぇが、あんまりボヤッとするなよ? 腹の中が腐っちまうからな」
「そうですね。魂だけじゃなくお腹の中もってなると、修正が効きませんから」
「魂? 何の話だ?」
「こっちの話です」
今日は厄日なんでしょうか。
いつもならここまでヘマしないのに、本当に。
「オレはこれから会合にでるから、しばらく受付頼むわ」
「はい、いってらっしゃいです」
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