第Ⅰ章 それぞれの船出(1)

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「フンっ!」  その自分目がけて飛んできた大剣の柄を両手でナイスキャッチすると同時に、キホルテスは剣先で弧を描くようにして、それを左から右へと思いっきり水平に振り抜く。  ガシャアァァァァーン…! 「ぐわあっ!」  その間、わずか数瞬……低い風切音が聞こえた直後、不意に大質量の横薙ぎを食らった騎士三人は、けたたましい音を立てて道の右脇へと吹き飛ばされた。  プロスペロモだけは辛くも中世風の身の厚い愛剣で受け止めたものの、やはりその強力な衝撃には耐え切れず、剣を弾き飛ばされると自身も無様に転倒してしまう。 「サウロ、今だ!」 「はい! リュカさん!」 「おうよ! てめーらも押すのサボんじゃねえぞ!」  その一瞬の隙を彼らは無駄にしない。  キホルテスの合図でサウロは荷車の後方に再び取り付き、リュカも腕と脚の筋肉に力を込めて荷車を曳き始める。  キホルテスもツヴァイ・ハンダーを荷に戻しながらそこへと加わり、三人は全速力で船の待つ港目がけて走りだした。 「くっ…おのれ、不意を突かれたわ……おい! いつまでも寝てないで早く起きんか! ああ、そこの警備兵の方、やつらは悪名高き海賊の一味、〝禁書の秘鍵団〟です。、申し訳ないが、ドックにいる我らの団長にこのことを知らせてくだされ。それから、やつらの捕縛にもご協力いただきたい。わしはこのまま、奴らを追いまする!」  無論、そのままあっさり見逃してくれるわけもなく、プロスペロモはいち早く起き上がると伸びている仲間達を叩き起こし、ポカン顔で立ち尽くす警備兵にも的確に指示を飛ばす。 「……あ、は、はい! かしこまりました~っ!」 「まさか、こんな所でやつらに出くわすとはの……昨夜見た〝捜し人に奇遇にも出逢う〟というあの夢、あれは正夢じゃったか……」  そして、慌てて駆け出す警備兵を見送ると、そんな予知夢をよく見てしまうという特異体質を改めて自覚しながら、自身も爆走する前方の荷車目がけて全速力で走り始めた――。
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