第Ⅰ章 それぞれの船出(1)

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 銃弾を防ぐために厚い鉄板で胴体部だけを覆う今風のキュイラッサー・アーマーではあるが、そこに籠手と膝当てもわざわざ追加装備して中世風の鎧に見立て、兜も昨今流行りの帽子のようなモリオンではなく、顔を覆うバイザーの付いた古風な騎兵用のクロウズ・ヘルムである。  また、腰に長剣とダガーを帯びているのはもちろんのこと、さらには騎士を象徴する逆三角形状の盾――カイト・シールドまでをも左肩にぶら下げており、この物々しい恰好ならば、役人に目を付けられるのも無理はなかろう。 「なぬ! それがしが騎士道バカと? ……そ、そんなに誉めないでくだされ~」  思いっきり嫌味として言ったつもりの青バンダナの男――リュカ・ド・サンマルジュであるが、甲冑を着たその古式ゆかしい騎士(カバイェロ)の青年――ドン・キホルテス・デ・ラマーニャは、怒るどころか、なぜか照れてニヤけている。 「誉めてねえよっ!」 と、呆れ返ってさらにツッコみを入れるリュカ。  すると、もう一人の後で荷車を押す少年――ドン・キホルテスの従者であるサウロ・ポンサが…… 「リュカさん、旦那さまをバカ呼ばわりしないでください! まあ、確かに僕もバカだとは思いますけど……」 と、バカにされた主人の名誉を守ろうとリュカの暴言に抗議した……いや、結局、彼もバカ呼ばわりしてしまっているのであるが……。  そう……この古きよき騎士道文化を愛するドン・キホルテスの趣味のために、三人は今、武装した兵士達に追われて荷車とともに全力疾走しているのである。  それは、五分ほど前のこと――。
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