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「んにしても、てめえのその形はなんとかならなかったのかよ? 目立ちすぎだろ?」
気怠そうに荷車を曳きながら、リュカは振り返ると目つきの悪い顔でキホルテスの大仰な衣装を睨みつける。
「フン、何もわかっておらぬな、リュカ殿。この甲冑は騎士の心意気……ここは新天地と違い、エルドラニアの本国、万一のこともあるやもしれぬ。騎士たる者、いつ何時とて戦を忘れぬものにござる」
だが、キホルテスはまるで反省する様子もなく、むしろ堂々と銀色の鉄板に覆われた胸を張って自慢げにそう答える。
「すみません。ご迷惑をおかけして。私も止めたのですが、どうしても聞き入れてくれず……」
「ハァ……ま、本国じゃ俺達の顔知ってるようなやつもいねえだろうし、船の護衛に雇われた傭兵か、さもなきゃ時代遅れのコンキスタドール(※新大陸の探検家)ぐれえにしか思われねえからいいか……」
そんな困った主人になり代わって謝る従者サウロに、こいつには言うだけ無駄とリュカも諦めた時のことだった。
「そこを行く騎士殿! またずいぶんと昔気質な格好をしておりますなあ」
「まるで、騎士道物語にでも出てくるかのような古風な御出で立ちで」
リュカの懸念通りといおうか案の定といおうか、前方から来た巡回中の港の警備兵二人が、キホルテスの時代錯誤な甲冑姿に目を止めて声をかけてきた。
彼ら二人は対照的に、鎧の胸当てとモリオンをさらに簡素化したキャバセット型兜だけを着けるという今風の装いだ。
「騎士道物語……テヘヘ、うれしいことを言ってくだされるな」
「そのような物々しい恰好でどちらへお出かけです? どこぞの戦にご参加ですか? それとも新世界へ冒険にでも?」
いつものことながら、なぜかいいように捉えて照れる楽天的なキホルテスを、警備兵達は訝しげに見つめながら慇懃無礼にふざけて尋問する。
「え、ええ、そうなんです! 私達、これから前人未到の新天地の奥地目指して冒険の旅に出るところなんです!」
「そんでもって、その船旅の食料を買い出しに来たところでさあ」
まったく危機感のない暢気な本人は無視し、やむなくサウロとリュカは穏便にすませようと平身低頭に話を合わせるのだったが、運命の悪戯にもさらに不都合な事態が彼らを襲う……。
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