第Ⅰ章 それぞれの船出(1)

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「見憶えがあるのも当然! きさまらとは何度も刃を交えているのだからな。わしは〝白金(しろがね)の羊角騎士団〟が一人、プロスペロモ・デ・シオスじゃ! ドン・キホルテスと、そっちの若いのはその従者サウロ・ポンサ、もう一人の凶悪な人相しておるのはリュカ・ド・サンマルジュだな? 神をも恐れぬ海賊としての罪、おとなしく縛について懺悔せい!」  宣教師――プロスペロモは三人の顔を見回した後、大仰に芝居がかった調子で、あたかも説教でもするかのように朗々とその捕縛を宣告した。  〝神の眼差しに羊角〟の紋章を付けた兵士達……それは疑うべくもない。キホルテス達の一味を執拗につけ狙う、海賊退治を専らとするエルドラニアの精鋭騎士団である。 「凶悪な人相って……てめえも言えた面か?」 「そんな張りあってる場合じゃないですって。これ、けっこうガチでヤバい状況ですよ?」  予期せず天敵に出くわしてしまったという危機的状況ではあるが、いっそう極悪な顔になって文句とガンをつけるリュカの傍ら、サウロもサウロで真面目に困った顔をしてはいるものの、それはこの切迫した事態に対してというよりも、むしろ大人げないリュカの態度に向けたものである。 「ドン・プロスペロモ殿か。うむ。その名、憶えておこう」  無論、キホルテスはそれに輪をかけて慌てた様子を微塵も見せず、それどころか堂々と胸を張って、どこか愉しげな笑みまで浮かべている。 「フン。ずいぶんと暢気なものだな。ま、その暢気さを絞首台の上で後悔するがいい……皆の者、ひっ捕らえいっ!」  それでもプロスペロモは彼らの反応になど一々気を留めることなく、他の三人の騎士にも声をかけると一斉に抜刀してキホルテス達を取り囲む。 「では、騎士は騎士らしく、口ではなく剣で語り合うといたそう」  だが、次の瞬間、ようやくキホルテスの顔が戦士のそれに変わる。いや、愉悦の微笑みはなおも浮かべたままであるが、その瞳の奥に殺気の炎が灯ったのだ。 「サウロっ、ツヴァイ・ハンダーだ!」 「はい、旦那さま!」  そして、サウロに大声で指示を出すと、彼の忠実なる従者は荷車の中から身の丈以上もある長大な両手用の剣を引っ張り出し、その重たい鋼の塊を主人の方へと力いっぱいに放り投げた。
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