1. シンデレラ

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 こういう展開だというのはよく知っていた。だってチュートリアルは一回プレイしたことあるし。敵の目的は文学を抹消することだ。その対象となった本は白紙にされる。だから編集者はその物語に潜り込んで、再び書き現わすのだ。それがエディットの目的、なんだけど。  こう、目の前で真っ白になった本を見ると驚いてしまう。だって確かに俺の記憶には『シンデレラ』という物語はある。幼い頃に読んだという記憶もあるし、だいたいの筋書きは知っている。でもそれが消えてしまうのだ。もしかしたらこの記憶さえも無くなってしまうかもしれない。知っているものがわからなくなる、というのは。これほどまでに恐ろしいのか。 『イエヤス、おい。なにぼーっとしている』 「あ、すいません……本が白紙で、ちょっとびっくりして」 『ふん。殊勝な態度を取られてもな。お前にはこれからその本を編集してもらわなくちゃならない。変に浮かれるなよ』 「わかってます。大丈夫。それで、俺はなにをしたらいいんですか」  恐ろしく白い本をパタンと閉じて、通信機器に顔を寄せる。エリナの持つ万年筆には通信機器だけではなく、簡易的な救急セットや野営道具が出せる機能がある。実際にどうやってそれを取り出すかは正直わからないけれど、多分遅からず知ることになるだろう。 『まずは情報集めだ。今お前たちがいるのは物語の冒頭だな。本が全て白紙になっているのがその証拠だ』 「つまり、この部分を書けば物語が復活する?」     
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