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本の世界に行くことをこの世界では「エディット」という。汚された物語を正しいものに編集するため、そう言われる。その際に必要な詠唱は他のものと違い長く、複雑だ。そうでもしないと、素人が本の世界に巻き込まれてしまうからだ。いやいや、俺だって素人だっての。しかもこのクソ面倒な詠唱のせいで俺はまだエディットできていない。
口の中で小さく舌打ちをして、もう一度最初から詠唱を初めから唱える。言い飽きたとかそういう文句を言うのも疲れて、もうこのままゲームオーバーかと思うほどだった。だってこれ英語だし。俺英語の成績はずっと4だったんだよ。良くもなく悪くもなく、目立たないような成績。それをずっとやってきたんだ。そんな人間がそう上手く言えるかってんだ。
「あーくそ……」
「早くしろ。じゃないとあいつが来てしまう」
「あいつ?」
「やかましい、お前には関係ない。さっさとしろ」
「横暴だな全く!」
そういえば。今になってはたと気づいた。本来なら隣にいるはずの存在が先ほどからずっと見えなかった。初めから終わりまでずっと主人公の隣にいた、あのストロベリーブロンド。俺をVRからこの世界に連れてきた人物。菫色の瞳は、果たして今どこにあるのだろうか。
「なあ、エリナは?」
不思議に思って、隣に居る辟易とした顔をしていたアンデルセンに尋ねてみる。神経質そうにモノクルを触っていた彼は、俺の言葉を聞いてますます渋い顔をした。くしゃくしゃの前髪を乱暴に書き上げ、大きくため息をついた。
「なんだってその名前を知っているんだ、貴様は」
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