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そうか、俺、気負ってたんだ。不安でたまらなかったし、喉も震えて詠唱どころじゃなかった。
いろいろと気になることは多くあるが、今はただ彼女が隣にいてくれたらそれでいい。それだけで、目の前が一気に眩しく感じられた。
「エリナ・ファージョン、参上いたしました。どうぞご命令を、チーフ」
「……よし、行こう。俺は右も左もわかんない新米だけど、やれることをやるよ」
「はい!」
「ったく、あれほど言ったのに……そういうところは昔から変わらんな」
「アンデルセン博士、すいません。でも、私……」
食い下がるようなエリナの頭に、やや乱暴だが親しみを込めた手つきでアンデルセンが手を乗せる。そのままぐしゃりとかき混ぜて、目を白黒させるエリナに「死ぬなよ」とだけ言った童話作家の目は、まるで愛しい孫娘を見つめるようだった。
その言葉に深く頷いたエリナが、俺に先ほど落とした本を手渡してくれた。分厚い革で作られた表紙には流れるような筆記体でタイトルが記されている。それは、俺たちが今から向かう世界の名前だった。シャルル・ペローによってまとめられた童話、『シンデレラ』。そこが、俺たちにとって初めてのエディットの舞台だ。
「イエヤス、エディット前に言っておくことがある」
「え、っと。はい、なんですか」
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