1. シンデレラ

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 どうせ人はいつか死ぬ。だったらその命を、何に使うか。それをよく見極めろ。これもアンデルセンの言葉だ。お話としてはまだ先のことだから今の俺が知っているのはストーリーてきにはおかしいのだろうけれど。それでも、アンデルセンはいつも俺たちの命を最優先してくれた。それはこの世界でも変わらないようだ。 「返事は」 「……っ、はい!」 「よし。それではこれよりエディットに移ってもらう。準備はいいな」 「大丈夫です。いつでもいけます」  腕に抱えた本をぎゅっと握りしめる。俺に力はない。ずっと地味に生きてこようとした。課金と、ツイッターだけが楽しみだった俺がまさか命をかけて何かと戦おうとするなんて。そういえば俺、ケータイ持ってきてるのかな。本の世界でもツイッターってできるんだろうか。でも誰も信じてくれなさそう。  まあ、それは無事に生き延びてから考えればいいか。 「詠唱は……ああ、大丈夫そうだな。その顔だと」 「今度こそ大丈夫です。エリナがいるから」 「やれやれ。その締りのない表情だけは勘弁してくれ。甘ったるくて胸焼けしそうだ」  そんな小言を聞きながら、自分の頭の中がクリアになっていくのを感じた。それまで覚束なかった詠唱も今なら流れるように口からこぼれてきそうだ。 「これよりファースト・エディットに移る。編集者はイエヤス・フジムラ。サポートはエリナ・ファージョン。ターゲットは……シャルル・ペロー『シンデレラ』だ!」     
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