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大陸を縦に分断する、5000メートル級の山々が連なる連峰の西側には広大な泥炭地が広がっていた。
南からの風に乗ってきた雲は山々を越えることが出来ずに停滞し、山麓地域一帯に毎年膨大な量の水をもたらした。緯度の高いこの地域の冬は長い。水は過ぎ去る季節と共に重たい雪へと変わり山風に乗って大地へと吹きすさび、木々を押し倒し、干上がることを知らない湿地帯の肥やしとした。倒れた樹木は雪の下で長い年月をかけて炭と化し、この地域の人々の暮らしを支える収入源となった。こうしてこの農耕に不向きな地域に住まう人々は、数千年の古代より炭の商人として生計を立て、厳しい環境に適応して命を繋いできたのだ。
この地域の東の外れ、山脈をやや登った標高800メートル付近の斜面に、鬱蒼と広がる低木の繁みがあった。ヒイラギやイバラ、はたまた笹、そして背の低いカエデ等の広葉樹など、数えきれない種類の木々から成るその森とも林ともつかない奇妙な樹木帯はオオカミをはじめとする肉食動物のねぐらとして知られていて、土地の人間は誰も近寄ろうとはしなかった。ましてや、数年前よりそこに世にもおぞましい姿の何者かが住み着いているのを近くの村落の者が複数遠目から目撃し、討伐に送られた者達を尽く返り討ちに遭わせているともなると人々はますます恐れを抱くようになり、元より慎重な土地の気質も相まって、その一帯にはいよいよ何人たりとも近付いてはならぬといった御触れが下されるようになった。
人々は口々に、あそこには呪われた男が住み着いているのだと噂した。
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