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「九条さん――ごめんなさい、ちょっと面倒なことになって」
先刻縛られていたセダンの後部座席で
僕は待ちぼうけの恋人に急いで電話を入れる。
「今から?んんと――」
やめた方がいいと言いたい気持ちを抑えて
僕は運転席を盗み見る。
薄井は大して興味もない顔で
それでも任務を遂行するべく聞き耳を立てていた。
『話は会ってからでいい。とにかく――』
君が心配なんだと
九条さんが言うから――。
「分かりました。それじゃ待ち合わせのカフェに?」
『とっくに閉店だよ』
微かに苛立ちを孕んだ声で九条さんは答えると
『インペリアルホテルのバーラウンジに。VIPルームを抑えとく。いい?』
「分かりました」
場所を指定して電話は切れた。
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