第1章

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エレベーターは使わずゆっくり階段を上がっていき、2階のフロアに着き203に向かう。 部屋番号だけの名前のない部屋のチャイムに震える指を当てた。 夕貴、ガンバレ 心の中で自分を励ましながら目を瞑って力を込めた。 ピンポーン 『はい、どちら様?』 懐かしいテノールは昔とあまり変わらない艶やかな声。声だけで男の色気を感じる。 深呼吸をひとつして、返事を待っているだろうドアの向こうの人に 「夕貴です。」 と告げた。 直ぐに開いたドアの向こうに現れたのは、不機嫌そうな美しい顔 鼓動はどんどん加速していく。 「話したくなかったんじゃないの?」 冷たい声が胸を抉る。 「えっと、昨夜はごめんなさい。 迷惑なら断っていいのだけれど… 今、お邪魔出来る?」 逃げたくなるを必死に堪えて言葉を紡いだ。 「構わないよ、二人っきりになっていいならどうぞ。」 表情を変えない高村くんが何を考えているのか分からなくて、悲しくなる。目頭が熱くなるのを瞬きを繰り返して必死で耐えた。 「えっと…嫌だったら帰るから…。」 グズグズ中に入らない私の腕を取って中に引き入れ、高村くんがドアを閉めた。 狭い玄関で体の触れる距離に胸が騒がしくなっていく。 玄関の暗さに目が慣れなくて戸惑ってると、鍵が掛かる音がした。 「ここ狭いから、上がって。」 「う、うん。」
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