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エレベーターは使わずゆっくり階段を上がっていき、2階のフロアに着き203に向かう。
部屋番号だけの名前のない部屋のチャイムに震える指を当てた。
夕貴、ガンバレ
心の中で自分を励ましながら目を瞑って力を込めた。
ピンポーン
『はい、どちら様?』
懐かしいテノールは昔とあまり変わらない艶やかな声。声だけで男の色気を感じる。
深呼吸をひとつして、返事を待っているだろうドアの向こうの人に
「夕貴です。」
と告げた。
直ぐに開いたドアの向こうに現れたのは、不機嫌そうな美しい顔
鼓動はどんどん加速していく。
「話したくなかったんじゃないの?」
冷たい声が胸を抉る。
「えっと、昨夜はごめんなさい。
迷惑なら断っていいのだけれど…
今、お邪魔出来る?」
逃げたくなるを必死に堪えて言葉を紡いだ。
「構わないよ、二人っきりになっていいならどうぞ。」
表情を変えない高村くんが何を考えているのか分からなくて、悲しくなる。目頭が熱くなるのを瞬きを繰り返して必死で耐えた。
「えっと…嫌だったら帰るから…。」
グズグズ中に入らない私の腕を取って中に引き入れ、高村くんがドアを閉めた。
狭い玄関で体の触れる距離に胸が騒がしくなっていく。
玄関の暗さに目が慣れなくて戸惑ってると、鍵が掛かる音がした。
「ここ狭いから、上がって。」
「う、うん。」
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