第1章

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離して欲しいのに手を離す気配がなくて、 「山口先生、困らせないでください。これはセクハラですよ。」 眉を寄せてわざと不愉快な顔を作った。 そうしないと手は離れそうに無かったから… 「あ、ごめんなさい。つい…」 すぐに手が離れ、ホッとして小さく息を吐いた。 何事も無かったように二人とも再び書類を重ね始めたけれど、気持ちとは関係なく鼓動は早打ちしていた。 書類を重ね終わると、今度はホッチキス留めをしていく。 ワンセットづつ取って重ねられた書類を立ててトントンと軽く机に落としてズレを直して、ホッチキスで二ヶ所留める作業。 セクハラと言い放ってから、山口先生は静かに作業を進めている。 ガチャン、ガチャンとホッチキスの音と、コンコンと紙を机に落とす音だけが響く会議室。 会話がないことが何となく気まずい。彼が何を考えているのか心配になる。 早くこの時間が終わるよう作業に集中した。 最後のセットをホッチキス留めして作業は終わった。 「浅井先生、ありがとうございます。」 「いえ、このくらいお安いご用です。」 丁重に頭を下げる山口先生に、何事も無かったように笑顔を向けた。
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