第1章

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「ありがとう。まだこのカップ持っててくれたんだね。」 「捨てられるわけないよ。」 高村くんの気持ちが嬉しいけれど… このカップを誰か使ったのかが気になる。 「誰にも使わせてないよ。」 私の顔に気持ちが出ていた…? 一気に熱くなる頬を両手で隠した。 「あ、ありがとう。」 「で、昨夜は会ってくれなかったのにどうしたの?」 無表情な顔に冷たい声 たぶん彼は昨日のことを怒ってるんだ。 「…えっと、昨夜は失礼なことをしちゃったから謝ろうと思って。」 「もうさっき謝って貰ったよ。他に用は?」 刺々しい言葉に居心地が悪くてさっきやっと堪えた涙腺が緩みそうだ。 「えっと… 私、帰ります。」 居心地悪くてこの場から逃げたくて 本題はまだ聞けてないのに、思わず帰るという言葉が口から飛び出した。 何やってるんだろう 聞きたいこと何一つ聞けてないのに… 胸がキューッと締め付けられるけれど、出た言葉は引っ込みがつかなくて俯いたままスッくと立ち上った。 視界は既に滲んで瞬きしたらこぼれ落ちそうだ。 立ち上がったら帰るしかない。 玄関に向きを変え一歩を踏み出した時 「何か聞きたかったんじゃないの?」 後ろから聞いてくる高村くんの気持ちが分からなくて、ますます悲しくなってくる。
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