一章 望降ち

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「僕なりの、誠意のつもりだ。昨日、小野が言った事を冗談や気の迷いだとは思ってない。男同士だからとか、そういう常識のために捨てられる程度の気持ちじゃないから僕に話してくれて、こうして気持ちを証明しようとしてくれてるんだと、思う」  小野が、少し驚いているのが気配で伝わって来る。やっぱり、目を見て話すべきだろうか。彼がそうしてくれたように。 「正直、小野を友達以上には見られないと思う。でも、小野は宗貞みたいに百夜通うって言い切った。だったら、僕も吉子の様に待てるだけ待つべきだと思った。僕は小野と対等でいたい。僕の都合で小野の気持ちを蔑ろにするのは、違うと思う。……上手く伝えられなくてすまん」  自分の中で消化しきれていない気持ちをなんとか言葉にしようとしたけれど、伝わっただろうか。いつもの様に、いつも以上にまっすぐに僕の目を見て話を聞いてくれた小野は、笑って言った。 「ううん。充分だよ」  昨日から固い表情ばかり見ていたから、小野の笑顔をなんだか久しぶりに見た気がする。なんだか安心して、手の中の札を握りしめた。  僕の緊張が解けたのを察したのか、殊更冗談めかして顔を覗き込まれる。 「……捨てないでね?」 「それはフリか?」 「いえ!断じて!ほんとマジで捨てないでくださいレジ袋につっこんどくんでも何でもいいんで!」 「……ふ、わかったよ」  冗談に冗談で返したのに、本気で焦って懇願する様がおかしくて、小さく笑いが漏れる。くすくす笑っていると、真剣な声音で名前を呼ばれた。 「……草町」 「ん?あ、悪かったな、こんなところで。上がってくか?お茶でも……」 「好きだよ」  思わず息を呑んで小野の顔を凝視した。  穏やかに、優しげに、色素の薄い目を細めて笑っている小野と視線が絡む。一瞬「愛おしそうに」という形容が脳を霞めて、言葉が出て来ない。 「今日はもう遅いから帰る。ちゃんと髪乾かして、風邪ひくなよ。おやすみ」 「あ、うん……おやすみ」
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