一章 望降ち

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 彼はすぐにニコっと笑って、僕が首にかけていたタオルで僕の頭をわしわしと拭いた。またね、と手を振って去って行く小野を呆然と見送る。  小野の微笑みが、網膜に焼き付いたみたいに消えない。彼は感情がすぐに顔に出るから色んな表情をたくさん見て来たと思っていたのに、昨日から知らない顔ばかりされる。戸惑ってばかりで調子が狂う。 「……もう、今日は寝よう」  ひとりごちてドアを閉め、施錠してチェーンをかける。レポートに集中できる気がしない。  それどころか、寝られるかどうかも少し不安になる程度には脳内がパニックだった。
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