一章 望降ち

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 ふと、小野の鞄の上に置かれた二枚の札が目に留まった。 「これ、今日の分。眺めてたらさ、なんか、わかるなーって思った」  視線に気付いて、箸を置いて札を手に取る。今日は三日目。 「あしびきの……」 「草町といる時間はホントに早くて、ずっといたいと思うのにあっという間でさ。でも、草町がいない時は、ながーくて、寂しくて、切なくて」  小野が札を眺めている。恋人のいない秋の長い夜を詠った恋のうた。 「ずいぶん一緒にいるような気もしてたけど、全然だなって思っちゃった」  小野はいつから僕を想ってくれているんだろう。出会ってから流れた時間の感覚が違うらしい。僕は、小野を想ってそんな顔はきっとできない。  僕は今、どんな顔をしているんだろう。 「……好きだよ」  小野が昨日とも、一昨日とも、最初の「好き」の時とも違う顔で告げた。
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