一章 望降ち

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「ね、興味あるだろう?面白いよー?教授と俺のオススメだよー?」  件の論文と思しき紙の束を僕の目の前でバタつかせながら、有川先輩はニヤニヤと楽しそうだ。不本意ながらとても気になる。そしてそれを見透かして、確実に食いつくと確信している顔が悔しい。正直に言おう、読みたい。普段どれだけ表情筋をまともに動かしていなかろうと、今の欲求が表情に出ているのは自覚できた。 「俺と一緒に昼食を摂ってくれるなら、貸してあげる。読み終わって食べ終わったら、休み時間いっぱい議論しようじゃないか」  こんなんでも一応僕の耳にも入るくらいにモテるらしいし、実際交友関係は広いのだからわざわざ僕なんかを誘わなくても良いものを。この、「お前は俺の手の平の上で踊るしかないのさ」と言わんばかりの、僕で遊んで楽しんでますと書いてある顔が気に食わない。でも。 「ねぇ、草町真君。俺は知っているよ?キミは俺が人間としては苦手だろうけど、俺との議論、結構気に入っているだろう」  そう、有川先輩がどんなに人間的にいけ好かなくても、賢い人であることは確かなのだ。からかわれさえしなければ、彼との会話や議論は大変に勉強になる。  簡単に言ってしまえば尊敬しているのだ。認めたくはない程度にやっぱり人として苦手だし、僕の感情をわかった上で構って来るから始末に負えないけれど。  認めてしまうのはとんでもなく癪で、見透かされているのもその行動が先輩の言葉を肯定することもわかっているが、それでも僕は彼の手から夢の詰まった紙の束をひったくった。 「素直でよろしい。いやー夕方の教授との議論が面白くなりそうだ。あの人を言い負かせられるとはまだ思ってないけど、手札は多いに越したことないしね。草町君は俺にはない感性の持ち主だから、話していてとても得した気分になるよ」 「はい?」  後半、なんだかサラッと珍しく褒められた気がするが、問題は前半だ。 「教授と、話すんですか」 「ん?そうだよ?これ、週明けに感想と考察を聞かせてねって先週末借りたんだもん」 「……」
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