百夜通い 序章

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「うーん……日付が変わる前、だと厳しそうだから、夜が明ける前までには草町に会いに来るよ、毎日。百夜通うからオレのになって、草町」  体を起こしてベッドに胡座をかいた小野は、少し低い位置にある僕の目をまっすぐ見据えて言った。柔らかく目を細めて笑っている顔が一番印象に残っているのに、今は若干かたい気がする。 「小野って、思ってたより重いヤツだったんだな」 「重くたってなんだって、草町がオレの事好きになってくれるなら百夜だって千夜だって通うよ」  冗談に冗談で返そうと思ったのに、とうとう小野は核心部分の単語を口にした。  僕に、小野を好きになれって言ってるのか。 「ほ、本気……?」 「本気」  目が、そらせなかった。  小野はもとから人の目を見て話をする。語彙が足りない気はあるが、理解力がないわけじゃない。噛み砕いて説明すればちゃんと理解する。目を見て、相手の話を理解しようと心を砕いて聞いているのがわかる。自分が話す時は、解ってもらおうと足りない語彙を補う様に相手の目を見て話す。  だが、今の彼の目はいつもと少し違う。僕の言葉を理解しようとしているのではなく、僕の心の一番奥を見透かすような目だ。少し、怖い、と思った。  一番大事なところを聞けないまま、問答を続ける。 「百夜って……」 「えーと、三ヶ月ちょい?」 「……その間、僕に毎晩小野が来るの待てって?」 「うん。なんせ現代だ。電車もバスもある。牛車で橋を渡って落ちるなんてことはない」 「僕に三ヶ月半外泊するなと」 「遅くなるならスクーターで迎えに行くよ。ココまで送る」 「あと一ヶ月もしたら夏休みだぞ。……旅行とか」 「は、行かないでほしい。つか旅行行くの?草町、出不精なのに」  言われて、確かに旅行の可能性はとても低いな、と思い直す。夏休み中に出掛けるとしたら、図書館か行きつけの近所のカフェくらいだ。親が放任なので帰省しろとうるさく言われることもない。 「百夜通いの結末、知ってて言ってるのか。結ばれたわけじゃないんだぞ」 「うん。でも今は平成だよ。帝のお傍でなきゃ夢が叶えられないの!とかもないだろ?昔無理だったことでも、今ならできるって証明しよう」 「小野は僕を女官にしたいのか」 「違うよ、オレの恋人になってほしいの」
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