三十路女の憂鬱

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なんだこいつ? そう思ったのは確かで、ジトッと完全に座った目で私は男をうかがい見た。 記憶の中ではカウンターには私しかいなかったはずだ。 …いつからそこにいたのだろうか。 まぁいいや。 「私も飲みたくなる日だってあるんです!」 子供みたいにべーっと舌を出してしまいそうな勢いで、嫌味っぽくようやく言いかえした私にマスターも苦笑い。 本当に舌を出したわけではないけど……初めて会った人に私は一体何をしているんだろう。 頭の中では理性を失ったヘロヘロな私と冷静な私が交錯していた。 そんな態度の悪い私を見て楽しそうにケラケラと笑う彼は、お洒落なバーにはあまりいない近所のお兄ちゃんタイプの雰囲気でなぜか親しみやすさを感じた。 「ははっ!気に入った!そうだよな!よし!今日はとことん飲むぞ!」 笑いながら席を詰め私の隣へと移動してくる彼をじっと見つめる。 飲むぞ? なんで? 私と一緒に? 疑問に思いながらぼーっと彼を見ていると、氷がカランと音を立てくずれ、自分のお酒が空になった事に気付いた。 あれ?もう、一杯飲んだっけ? 徐々に冷静な私の割合が減っていく頭で、今度は空のグラスを見つめる。 「マスター、もう一杯同じの出してあげて。」 私は何も言ってないのに、隣の彼は勝手に私のお酒を注文する。 するとすぐにグラスが空になったのなんて無かったことのように、さっきと同じ場所に新しいお酒が出て来た。 「かんぱーい!」 「……乾杯。」 楽しそうに声を上げる彼につられてグラスを重ねる。 グラスとグラスが交わる軽快な音をキッカケに、今日初めて会った変なテンションの彼と泥酔している私は何故か一緒に飲み始めた。
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