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途端に爆音が耳をつんざき、勇者御一行が泡を吹いて倒れた。まるでどこかの空き地でリサイタルを聞いているような感じだ。映像で見ている王様達もきっと倒れているだろう。私も倒れたい。なんとか白目を剥く程度で堪えた自分の精神力の強さに拍手を送ろう。それよりも、どうしてこの歌で私をモノに出来ると思ったのか大魔王を問い詰めたい。
けれど、こんな歌でも一生懸命歌ったのだろう。歌い終わった大魔王が顔を赤くしながら息を切らせていて、不覚にもきゅんとしてしまった。
二人の間にしばし沈黙が流れる。
「プッ、フフ、ハハハハ!」
耐え切れずに噴き出した私がお腹を抱えて笑いだすと魔王が首をかしげた。
「プフ、ご、ごめんなさい、フフフ、ちょ、くるし」
笑いすぎて涙が出て来た。こんなに笑ったら流石に大魔王も怒るかと思ったけれど彼は怒ることなく「先ほどの笑顔より、こちらの笑った顔の方がずっと綺麗だ」なんて嬉しそうに私の目尻の涙を親指でなぞった。
男性の免疫0というかむしろマイナスな私にとってその行為は刺激が強すぎて顔が一気に茹でダコ状態になる。それを見た大魔王はフッと笑って「そんなに可愛い顔をするな。理性が効かなくなる」と頬を優しく撫でた。
「ちょ、ま、え、っと、あの、私、その」
「もう一度言う。我の妃になってはくれぬか?」
先ほどとは違い、懇願するような瞳に胸がきゅうっと苦しくなった。そして気が付いたらこくりと頷いていた。
どうやら二十五歳強制引退を前にして寿引退になりそうだ。
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