奪う者

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 ある日、ふと思った。  この世界には、【幸】と【不幸】が存在するが、実のところそれらの数は決まっていて、見えないバランスを取っているのではないだろうか――と。  【不幸】なことがあるから【幸せ】が感じられる?  違う。そうじゃない。  【幸せ】と【不幸せ】は、人間の数だけ存在している。例えば、この世界の人間の数が100としたら、【幸】が50、【不幸】が50となり、【幸せ】を有している者には【不幸せ】は訪れないのではないだろうか。  誰にでも【不幸】はやってくる?  どんな【幸せ】な人にも【不幸】になる切っ掛けは訪れる。それはつまり【不幸】な誰かに【幸】を奪われる時だ。【幸】か【不幸】の必ずどちらかを有さねばいけないのだ。ならば【不幸】な人間が【幸せ】になるには、【幸】と取り替えなくてはいけない。  誰かから奪わなくては、【幸せ】はやってこないのだ。永遠に。  それに気が付いたのは、子どもの頃だった。私と親友の菜月は赤子の頃から何時も一緒に居て、どんなことをしても楽しかったように思えていた。二人とも【幸】を有していたからだろう。  だが、幼稚園を卒園すると菜月は親の転勤で遠くに引っ越していってしまった。私は悲しくて仕方がなかった。来る日も来る日も泣いた。  きっと私はこの時に【幸】を誰かにすり替えられたのだろう。だから親友を奪われ、【不幸】な日々を送る羽目になった。それは中学生になっても変わらずにいた。  なぜなら私には【幸】を奪う術を知らなかったからだ。どうやったら【幸】を有する人間からそれを奪い、私の【不幸】とすり替えられるのか。  出来ることはしようと【幸福】な人になるための努力はした。勉学に励み、苦手な運動も少しは克服し、対人コミュニケーションスキルも磨いた。高校生になってからは女子力とやらも。  何が足りないのか、それでもまだ【幸】は奪えなかった。ただ、その頃には【幸】と【不幸】の保有状態を見極められるようになっていた。
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